遠い記憶をたどって,今の知識と照らし合わせてみれば,朝のゆううつ・何もやる気が起こらないなど,「小児期のうつ病」の典型的な症例だったわけですが,当時はまだ,うつ病などという病気は極めて稀で特殊なものだと考えられていましたので,「からだのどこどこが悪い」という診断はつかなかったわけです。
その時にかかったクリニックの医師は,家の近くの,「腕が良い」という評判はあまり聞かない内科医でしたが,とても暇だったたためか,私と,あるいは私の親と色々な話をし,色々と検査をし,そして,ちょっとした検尿異常をみつけて診断書を書いてくれました。私が「行けるときに学校にいけば良い」ようにしてくれたのです。
世間のご多分に漏れず,「学校はサボってはいけないところ」と思いこんでいる私の親に対しては,こんなふうなことを言っていました。
‥この子は,学校という場所で心になんらかの傷を負っているんです。学校に行ったらその傷の上をさらに傷つけられて傷口がどんどん深くなる‥だから学校に行くことができないんですよ。子どもが傷を負わないように守ってあげるべき親が,子どもが傷つく場所に無理矢理行かせようとしてはいけないんじゃないですか?‥と。
2か月が過ぎて,なんとか登校できるようになってからも,私は決して「喜んで学校に行く」わけではなく,「行きにくさ」は残っていました。しかしながら,「行きにくい場所には行かなくてもいい」と言ってくれる人がいて,不承不承(ふしょうぶしょう)ではあったかも知れませんが,親が「学校には行かなくても良い」を思ってくれた瞬間,少なくとも,「学校に行って欲しい」というまわりからの期待や無言のプレッシャーだけからは解放され,心が少しばかり軽くなったような気がします。
そして,このときの思いは,今の私の診療の中にずっと生き続けています。
人間の身体って,とてもよくできています。
例えば‥,風邪やその他の感染症(バイ菌が身体に侵入した状態:気管支炎とか,肺炎とか,膀胱炎とか‥)にかかると,体温を上げて,侵入したバイ菌をやっつけようとします。バイ菌の種類や侵入した量によって,自然に「ここまで体温を上げよう」と目標温度が設定されるようです。
普段よりも高い体温に上げるためには,多くのエネルギーが必要です。
手足を冷たくして身体の中心に熱を集めたり(四肢冷感),筋肉を激しく震わせて熱を作ったり(悪寒戦慄)します。
そして目標の温度を通り越してしまうと,今度は,顔や手足が真っ赤になったり,汗をかいたりして,上がりすぎた熱を発散します。
熱が高いときに「熱冷まし」(坐薬や飲み薬があります)を使うと,この「自然な身体の反応」を邪魔してしまいます。脇の下や足の付け根を氷で冷やすのも同じです。熱冷ましで熱が下がっている間に,バイ菌が増えてしまう‥というデータもあるそうです。
身体を作っているタンパク質が変性してしまう温度はおおむね41.5℃以上だそうです。それ以下の体温ならば,「熱」そのものを心配することはないようです。
ただし,熱中症(熱射病)の場合は別です。熱中症の熱は自分の身体で作ったものではなく,周りから熱せられて上がった熱です。自分でコントロールできない熱ですから,「熱を冷ましてあげる」必要があります。
脇の下や足の付け根を氷で冷やす方法は,熱中症の時に使います。風邪などの感染症の熱に対しては使わないでください。
熱がある時は,脱水症を予防するために水分をこまめに摂らせて,体力を消耗しないようにできるだけ安静を守らせてください。
寒がったら厚着にして,靴下を履かせて,掛け物を多くしてください。
暑がったら薄着にして,靴下を脱がせて,掛け物を少なくしてください。
そうやって,「子どもがバイ菌と戦う環境」を整えてあげることが大切だと思います。

人間の身体って,とてもよくできています。
例えば‥,目はとても大切な器官ですが,外気に接してホコリなどの異物にさらされています。ですから,目の表面はいつも「涙」で洗われて,常にきれいな状態を保つようにできているのです。
では,目の表面を洗った涙は,どこに行くのでしょうか?
正解は‥「鼻」です。涙は,「鼻涙管」という通路を通って,鼻に「排水」されているのです。
嬉しいときや悲しいとき,涙が鼻に流れたきた経験はみんなありますよね。
さて,それでは,排水先である鼻が,風邪や鼻炎でつまってしまったらどうなるでしょうか?
配水管がつまった台所のシンクを想像してみてください‥。
排水ができないから目がウルウル,そして汚れが流されないから「眼ヤニ」が出る‥。
どうでしょうか? ナットクしていただけますか?


